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【Aiの視座 第1回】ブロックチェーンが個人の権限を拡張する

 近年、盛んにメディアを賑わしている「AI(人工知能)」。日々新たな関連本が刊行され、ネットや雑誌でAIの文字を見ない日はないに等しい。しかし、「こんなすごい未来が!」といった賞賛から、「機械が人間の仕事を奪う」といった脅威論まで、さまざまな意見が入り乱れ、正直「何を信じたらいいのやら……」という人も少なくないのでは。そんなAIバブルの現在を迷わず生きるために必要な、現実的かつ柔軟な発想とは? 開発研究者の立場からAIの現実を綴った『誤解だらけの人工知能 ディープラーニングの限界と可能性』(松本健太郎との共著、光文社新書、2018年)の著者・田中潤氏に話を聞いた。(聞き手・辻本力、Revie編集部)

個人情報が「資産」になる時代へ

ーー今、AI関連でもっともホットな話題の1つに「ブロックチェーン」があります。「データありき」であるAIの発展において、この分散型ネットワークが果たすであろう役割の大きさについては、田中さんもご著書で言及されていますね。

 

 ブロックチェーンは、取引の履歴をまとめた台帳をチェーン(鎖)のように束ねて、一箇所にまとめて管理せず、分散して管理する仕組みです。鎖のように履歴を束ねてその都度、暗号化しているため、改ざんはほぼ不可能。データ自体も分散しているので、システム障害にも強い。したがって信頼性も極めて高いのが特徴です。

 

ーーブロックチェーンは仮想通貨とセットで語られることが多いですが、現状では、主にどのような領域で利用されているのでしょうか。

 

 やはり仮想通貨をはじめ、基本は金融業界における利用がほとんどです。それ以外だと、例えば「結婚」に絡めたサービスなども徐々に始まってきてはいるようですが、まだまだ実験段階ですね。

 

ーー結婚というと、いわゆる婚活サイトとか?

 

 そうです。結婚履歴や、過去にこういう人と付き合ったことがあるみたいなデータをブロックチェーンに貯めていって、マッチングに利用しようというわけですね。もっとも、そうしたサービスに限らず、さまざまな可能性を秘めた技術であることは間違いありません。

 AIとブロックチェーンは、間違いなく、これからセットで考えていくものになるでしょうね。現状、AIの利用するデータというものは、クラウド上に保存するのが一般的です。でも、それをブロックチェーンに置き換えることで、「できること」の領域が飛躍的に広がります。例えば、僕らがネットで検索した履歴だとか、今日どこを歩いたかというようなスマホアプリのデータなどは、全部勝手にクラウドに上げらてしまいます。で、一度クラウドに上げられてしまったデータというのは、その持ち主の権限外に置かれてしまう。つまり、Googleで検索したデータなら、それはGoogleの資産になってしまうわけです。でも、こうした個人のデータをブロックチェーンに貯めていくことで、それを自分の資産として保有することができるようになります。もちろん、それを売り買いすることだってできるようになります。

個人をエンパワーメントする「AI+ブロックチェーン(データ)」

ーーでは、その時に、AIはどのように関わってくるのでしょうか。

 

 その情報がどの企業にとって有用かということは、なかなか個人では判断がつきません。ならば、そのジャッジをAIに任せてしまえばいい。一見すると誰にとって価値があるのか分からない個人情報も、AIを絡めて提供することで、適切な買い手に「すぐ使える」形で提供することが可能になります。つまり、一見すると茫漠とした個人情報が、金銭的価値を持った「商品」になるわけです。

 

 

ーーAIが、有用なデータを選別・加工して、適切な買い手に売るところまでを自動でやってくれるわけですね。

 

 これまで勝手に抜かれていたデータに対して、「これは私のものです」と主張できる時代が来る、みたいなイメージですね。

 

 

ーー「自分」の著作権みたいな感じでしょうか。

 

 まさに。クラウド時代においては、データを資産に何かをしようとしても、個人に勝ち目はありません。基本的に、大手企業が勝つようにできています。しかし、ブロックチェーン時代になると、その限りではなくなっていくはずです。

 

 

ーー田中さんはご著書の中で、AIの浸透が進むことで「個人の時代」が到来すると書かれています。今のお話は、まさに「組織から個人へ」というその未来予想と合致しますね。

 

 「AI+データ」の組み合わせというのは、個人をエンパワーメントするものですからね。僕は自著の中で、「2018年時点でのAI=ディープラーニング」と定義しています。そのディープラーニング関係は現在、ものすごい勢いでオープンソース化が進んでいます。この流れが進めば、個人が最新のAI技術と自分のデータとを組み合わせて、どんどんビジネスができるようになるでしょう。そしたら、別にこれといった知識はなくともーーそれこそスマホのアプリを使うくらいの感覚で、個人情報を売り買いできるようになるかもしれません。

AIによる価値判断から生まれる新たなビジネスモデル

ーーここまでは、ブロックチェーンが個人の権限を拡張するというお話でしたが、ビジネス的な視点から見て、他にどのような可能性があると思いますか。

 

 仮想通貨など、金融の領域で主に使われてるブロックチェーンですが、今後はもっといろいろなもののデータベースになっていくことが予想されます。今は、ブロックチェーン内に持てるデータというのは、まだまだ小さく、内容も数値的なデータに限られています。でもこれからは、画像や動画といった、大きなデータも載せられるようになっていくでしょう。

 

 

 

ーー扱うデータの大きくなり、内容もバラエティ豊かになっていく、と。

 

 そうなってくると、より物々交換に近い形で、いろいろなものが取引できるようになっていくと思います。例えば、田舎の方に行くと、今でも野菜の物々交換が普通に行われていますよね。白菜が採れすぎてしまった農家のAさんが、きゅうりの採れすぎてしまったお隣のBさんと、余剰野菜を交換するみたいな。

 

 

 

ーー一種のエコシステムですね。

 

 採れ過ぎた野菜を他に分配して無駄をなくすため、昔から日本の田舎では普通に行われていることですが、ここに進化したブロックチェーンとAIをかませることで、それをビジネスにすることが可能になるかもしれません。例えば、Aさんのところで余っている白菜は、これまで近所のBさんとしか交換できなかったのが、遠方に住むCさんのところに「白菜が欲しい」というニーズがあることをAIがブロックチェーンの情報から判断できれば、新たな取引の可能性が生まれてきます。

 

 

 

ーー田舎での物々交換という原始的な取引が、取引が広範囲で行えるようになることで、利潤を生むビジネスになるわけですね。

 

 商品の種類の多寡、ローカルにおけるニーズや市場の価値、余剰の程度など、いくらたくさんのデータが揃っていても、それを複合的に見て判断が下せなければ、ビジネスにはなりません。そして、データが多ければ多いほど、等価交換かどうかの判断をするのが人間には難しくなってきます。

 

 

 

ーー確かに、判断基準が多すぎると、頭がこんがらがってしまいますよね。

 

 白菜3つとキュウリ10本を交換したとして、当人たちは適正な取引だと思っていても、実は片方が損してるかもしれないわけです。対してAIは、データが多ければ多いほど有利。それをもとに「この取引はあなたにとって得ですよ」という判断を自動的にしてもらえるシステムが構築できれば、ものすごく便利なはずです。しかも、取引の間に企業などが入ってくることもないので、儲けも大きくなる。AIがより賢くなっていき、データの蓄積が増えていけば、そういった新たなAIビジネスはどんどん出てくるはずです。

 

 

 

ーー野菜は放っておくと腐ってしまいます。だからこそ、瞬時に価値を判断して、適当な取引相手を選んでくれるAIがいたら助かりますよね。では、逆にすぐには腐らない、長持ちするような性質のものだった場合、どういうことになるでしょうか。

 

 

 長持ちするか否かは、いい目の付けどころですね。長持ちするーーすなわち価値の変わらないものであれば、価値判断は人間がする方が合理的でしょう。例えば、金のようなものがいい例ですね。そうしたものであれば、AIで取引する意味はあんまりないかもしれません。

 

 

 

ーー迅速に行わなければならない取引ほど、AI+ブロックチェーンが有用である、と。

 

 時間が経過するほど価値が下がってしまうものは、確実にそうでしょうね。さらに付け加えるなら、価値の変動がある程度予測できるものは、比較的AIで判断しやすいでしょう。例えば仮想通貨ーービットコインみたいなものって、突然数字がバンっと跳ね上がって、またバンッと落ちるじゃないですか。ああいうものはAIで予測しづらいです。数字の変化が比較的にきれいにカーブを描くもので、しかし人間にはデータが多過ぎて精度の高い判断が難しいものは、AIに任せるメリットが大きいと言えると思います。

 

【プロフィール】

田中潤(たなかじゅん)
Shannon Lab株式会社代表取締役。アメリカの大学で数学の実数解析の一分野である測度論や経路積分を研究。
カリフォルニア大学リバーサイド校博士課程に在籍中にShannon Labを立ち上げるため2011年帰国。
人工知能の対話エンジン、音声認識エンジンを開発。開発の際は常にPythonを愛用。
編著に『Python プログラミングのツボとコツがゼッタイにわかる本』(秀和システム)がある。

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